[当時に詳しいヒトならば、捕らえられ麗しい歌を喪ったセイレーンの噂は聞いたことがあったかもしれない。ロランの様子に彼が何ら違和感をおぼえていないのを見て取ると、小さく安堵の吐息をこぼした]おに。東方、か。[曖昧な態度のロランから、視線をアナスタシアへ向ける。彼女は魚に気付いた頃だろうか]――…北の方の海に。わたしは光のない深い場所で、暮らしている。[わたしは。前置きをして微笑んだ。他にヒトが来るのを認めれば、それはすぐに消え、そっと頭を垂れるのだった**]