[思考が霧に飲まれようとしかけた時に――かたと、箱が揺れた。]
…!
[箱の角、組み合わさった木板の僅かな隙間から、零れ落ちるのは銀色のきらめき。
立ち上がり、銀を追う。
それは窓辺から一度外へと流れ、粉雪に紛れて大気に溶けた。
再びそれが姿を現すのは、牙を持った獣の前。
銀の粒子は獣が触れえぬ結界となり、イヴァンのその身を守るだろう。
遠く、銀が動くのは感じ取れ。何が起こったのか理解できた。
イヴァンが起きていたか。牙を持つ者が一体誰なのか。
それは分からなかったが。
自分は、選んで、そして守れたのだと。]
…よかっ……。
[人知れず、部屋の中で膝をつき。
肩を抱くと、菫から零れた雫が、床に一粒、落ちて消えた。]