― 宿屋 ―
[部屋に入り荷物を床に置くと、寝台に腰掛け、アーベル>>34に見せた腕輪を撫でる]
ええ。とても大切なものだから。
[さっき答えた言葉を、独り言で繰り返す。
6年前、亡き夫が永遠の証として贈ってくれたのがこの腕輪だ。玉泉にも足を運んで、石から選んで作ってもらった特別な贈り物。
気紛れな細工師を彼がどう口説き落としたのかは、結局教えて貰えないままだった]
他の人には頼めないけれど、直して貰えるかしら。
[丁寧に布で包み直して手提げに仕舞う。まずは会ってみなければ始まらないので、細工師の工房を訪ねようと部屋を出た]