人である事を捨てて。ただの概念、ただの役割、ただの象徴となって。それで何を為せる。何を果たせる。そこに何が残る。……ふざけた事をぬかすな、朱花。[生まれた頃から胸に抱えていた『蒼花』は、とっくにつま先から髪の毛の一本まで、全身に内側から根を張り巡らせている。貴族として『人々の指導者』たれ――と育てられた彼女と、ほぼ同一の存在となっている。だからこそ、よほどの事がなければ蒼花が彼女の行動や思考を阻害・誘導するような事はなかったけれど。いま喋っているのは、多分『蒼花』の方だろう]