[それでも、へたりこんで、落とした端末を口を押さえていない手で寄せ、119を押す。
通話ボタン、――つながらない。つながらない。
そうだ、ここはおかしな場所だから、つながるわけはない。
大声はまだ出せそうになくて、震えながら、片手で操作して、音楽を呼び出した。
流行のポップス、一番上にあった曲。
大音量で流したそれは、多分広間まで伝わるだろう。
異変を覚えた人がきてくれるまで、いや、それからも暫くは動く事はできない。
ただ室内から目を背け、廊下をむいていたから、誰かが来たら口元押さえた手ははずさずに、時折咳き込みながら、もう片手で室内を示すのだった**]