―3日目/黒珊瑚亭―……はい、もう大丈夫ですから…。[数分、意識を失っていたけれど、暫くすれば起き上がって、食堂を後にした。横になった拍子に、胸ポケットから、姉の形見の、紅珊瑚の指輪が零れたことには気づけなかった。薔薇の花を象った紅珊瑚と、繊細な彫刻を施された金の腕を持つ指輪は、たしかユリアンの父の工房に依頼したものだったか。腕の内側に“ユーリエ・ガウナー”と姉の名が彫られているから、誰の持ち物か、すぐにわかるだろう。―――たとえ、『どんな場所』に、落ちていたとしても]