[喰らわなかったわけ。
それは、二つの存在──『朱花』と『護り手』の認識から、意識を逸らし続けていた事と直結する。
前者は、自らがその生を断ち切った、もう一つの命と重ねて。
後者は、幼い日に渡された餞別>>1:288の礼を、ずっと言いそびれて、何かを返したい、という思いが根ざしていたから。
──青年にとっての亡くせぬ理由が、獣にとっての喰らえぬ理由であったから]
……だって、お前。
『今まで』は、邪魔しなかっただろ。
[けれど、それは告げる事無く、淡々とこう返し。
あくまで近づこうとする様子>>85に、今までは抑えていた爪を振るう。
急所を狙ってのものではなく、振り払う目的のそれは、淡い光>>84に阻まれるか。
いずれにせよ、爪が届かぬ、と覚った獣は、本能的に跳びずさり、紅を周囲にめぐらせた]