―前日/クロエの部屋―
[仮とはいえ女性の部屋で二人きりとなるのは如何かと思い
開閉は部屋の主であるクロエに任せる事とし扉には触れない。
仕事場であればそのような事は考えずに済むのだが
親しき仲にも礼儀あり、が信条の男は妙な所で拘る。
友人たちを愛称で呼ばぬのにはまた別の理由があるが
その話はまた機会があればする事にしよう]
――…これが、
[クロエの手により広げられた図案を覗き込む。
じ、と食い入るように注がれる眼差しは真剣そのもの]
今度の依頼はスティレットなんだけど
慈悲を意味する野葡萄を何処かにあしらう以外は
細工師に一任したいと言っていたから――…
[十字架のような形状でとどめを刺すに用いられる短剣。
図案の外形をなぞるように指先が紙を滑る]