[端末は邪魔になる。声を紡ぐ直前、咄嗟にポケットに突っ込んだ。代わりに触れたのは、刃。けれど、まだ、抜かない。抜けない。]
……同じだよ。ただ、わたしは、思い出しただけ。
知らなかったら、しあわせでいられたのに、ね?
<火は制御を失い、散り失せる>
[迫り来る翼を目にした瞬間、横に跳んだ。
動きはやはり洗練されてはおらず、直撃は避けたものの、腕を掠めた。その痛みはまやかしなどではない。眉を顰めた。]
イカロスって、知っている?
蝋で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んだの。
幽閉された塔から逃げ出すために。
でも、太陽に近づきすぎて、溶けて、墜ちてしまった――
月もまた、熱を持てば、太陽の如く?
冷たい光は目を焼く火に成る。
飛べないんだよ。
<三度生まれた焔は、イレーネの背後から、注ぐ。その翼を溶かさんと、まやかしの熱を真実に変えて>