念には念を、と。[彼らの姿が見えなくなった後、執事は呪を紡ぐ]――この地から、逃れられぬように。[ふわり、と。薔薇の花弁は解き放たれたように茎から離れ、宙を舞う。全てが散れば、その手元には最早何も存在はせずに。それは風に吹かれる動きではなく、くるくると螺旋を描いて邸内を巡ると、やがて闇の中へと溶け込んでいった。周囲を薄く覆うのは、薔薇の芳香だろうか。それは他と邸内との世界を断絶する、不可視の壁を作り出す。簡易的なもの故に長くは保つまいが、一時を稼ぐには十分だろう]