まだ、って。
[キリルの言葉に、少しだけ上瞼を引き上げた。
確かに生還した後、お前のせいだ、なんて怒った覚えはある。
だけれどもそれはちゃんと後で謝った、筈だ]
…何でそんな話しを今するのさ。
俺はキリルに怒ったりなんか、してない。
[今でも夢に見る。忘れられぬ思い出。
頼まれた白い花を見つけ、斜面に採りに降りたまでは良かった。
家族の楽しい山登りの筈が、不意に変った山の天候。
ざざぶりの雨に崩れる足元と、母の悲鳴。
伸びてくる大きな手、落ちて行く荷物。
父の手が掴んだのは母の細い手だけだった]