−集会所・会議室−
[小机に長巻物を広げ、自警団員の若者に墨をすらせて、綽綽と記録をつけている]
口伝じゃもう、継がせる者がないからねえ。
最後まで記せる保証はないが、残せるとこまで残しておくさ。
ああ、若いの。墨を持ったついでだ。
ちょいとそっちへ、旅芸人の兄さんの名前の写しを……なんだ、ヒヨっこにしちゃ筋がいいじゃないか。
フン、それに物覚えも悪くはない。婆はずっとここにいたからね。外で起きてたことは、あんたらじゃなくっちゃ分からない。
どうだい、若いの。警邏団なんか抜けちまって、婆の弟子にでもならんか。
……冗談だよ、逃げるんじゃない。人魚のお嬢さんが拾われたときのこと、もう少し詳しく聞かせとくれ。
[そこには今回の事件のこれまでのあらましが淡々と、主観的な事実だけを抜き出すように綴られている。
自警団の把握している記録、そしてデボラ到着後に集会所で起きた出来事の大半は、まもなく書きあがることだろう]