― 現在・宿屋/ユリアンの部屋前 ―
[そうして。仮令服が汚れようとも娘は名を呼び続けていた。裂かれた喉、心臓が喪われている現状は絶望的だった。]
……やだよ
お父さんのように立派な行商人に成るんじゃなかったの?
相棒のナーセルだって、君の事待ってたよ
[腕に触れてみたけれど、冷たい感触はもう熱を宿さないと知れる。暫く佇んでいれば、暫しの後に立ち上がりそっと遺体にシーツを掛けた。一人で運び出す事なんて出来なかったから、自衛団の人を呼ぼうと立ち上がる]
ゼルギウス、さん、…イレーネさんの身体に障るから、さ
早く此処から出て、傍に付いていてあげて、よ
[それだけ、震える声で二人に伝えて。誰か来ているようなら娘は部屋の中のあり様を伝えようとして。カルメン、ユリアンと立て続けの死は、未だ終わらぬ日を予感させた。
寝巻の裾が染まったままなのも構わず、娘はその場で力なくへたりこんでいる*]