―台所―
[エルザの部屋の前に居たらしいエーリッヒには気づかなかったようだが、
その後ローザを頼むと声が聞こえたら黙って頷いたか。
もっとも、女性の部屋にずっといるのが憚られてイレーネに任せてしまったのだが。
台所で身体の中を遡って来るものを押さえ込むように水をがぶがぶと飲んだ。
一緒に、記憶も流してしまえたらと、そんな勢いで]
っ、…くっ。
[凄惨な朱の色。物言わぬ身体は散り散りになりかけ―
喰われたと思われる痕と、轢かれた痕。
違う、けれど同じと思うのはそれが『エルザ』のものであるからか。
苦い表情で握りしめた手を流し台にたたきつける。
次は自分かも知れぬという状況に、いつまでも消えぬ…消せぬ想いに。
深く息をついてポケットから煙草を取り出して口へ。
マッチで火をつけて勝手口から外へ出た]