……あ、あった。[女は記憶に残る灯火のような色をした背表紙を見つける。結婚するよりも前、夫が教会に返す前にと見せてくれたものだ。親の跡を継いで農夫となったが、本を好む人だった。別の場所で生まれていたなら、きっと異なる道を歩んでいただろう。]…‘何れの地より彼らが来るか。何れの刻より彼らが在るか。’[本を開き、詩の一節を口ずさむ。]――小説と同じ、フィクションだと思ってたんだけどな。[苦く笑いながら目を通す。]