[抱いていたエーリッヒの一部。
腕を少しだけ緩めて、胸元にあるハンカチを取り出す。
薔薇の香りを纏わせていたけれど、彼の血の匂いに混じり感じ取れない。
立ち上がり、別の色が移る白だったものを壇上に敷き
その上に静かに置いて、労わるように一度髪を梳き撫でた。]
――…。
[アーベルが戻る足音が聞こえれば、ふ、と振り返り]
悪夢を、終わらせよう。
『人狼』は、此処に居る。
[ゆらりと女の姿が獣のそれへと変わる。
小柄な亜麻色の毛並みの獣は、艶やかな尾をゆったりと揺らした。
アーベルにこの牙と爪を向けることはないのだけれど
獣は月が浮かぶ空を仰ぎ、歌うように一つ啼いた。**]