[抱き抱えられ意識を失って、どれだけの時が経ったか。
崖を下りる感覚を知らずにいたのは、彼女にとっては幸だったろうが。
薄らと開いた、焦点のぼやけた眼。
空を遮る天井から徐々に視線を下ろして、
傍にある他者の像を、朧に捉えた]
……フィオーラ……?
[朱唇が震え、か細く音をつくる]
私……
手、伸ばしたのに、届いたはずなのに、
掴めばよかった、離さなければ――
……ごめんなさい。
[きつく眉が寄せると、
金糸雀の双瞳が小刻みに揺らいだ。
シーツに爪を立て、掻き寄せる。指先の色が変わる程に、強く]