─ 黒珊瑚亭 二階・五号室 ─
俺、お前連れ出す時にユー坊に羅針盤渡してたろ。
あれ祖父さんの形見なんだけどさ、それだけじゃなくて。
持ったまま眠る直前、思い描いたヤツを視れるって代物だったんだよ。
で、俺が視たのってユー坊とお前でさ。
ユー坊の時は、羅針盤が回っても姿は変わらなかったんだ。
でも、お前の時は。
羅針盤が回って、戻ってきた時、こうなってたから。
[ぽふ、と月色の背に手を置く。
なんとなく、微かに震えているように思えて、その毛を梳いて]
しっかし。
視たときも思ったけどさ。
お前、狼になっても男前とか、ずるくね?
[視線は向けぬまま、からりと笑った*]