――ん、………どうして、だめなんだ…?
[目の前の男の顔は見えない。]
『無理だよ。俺は人狼だから。話くらい、聞いたこと…あるだろ?』
まだ幼かった自分にとって人狼なんてただの噂で、目の前の男は人にしか見えなかった。
狩猟に出る父の後を無断で尾行け、まんまと森の恐ろしさを目の当たりにし、その上半べそをかきながら歩いていて、急な斜面から滑り落ちた。
そして、通りかかった見たことのない男に助けられた。
男は「安住の地を求めて」と冗談めかしながら、旅をしていると語った。]
『俺んとこの集落に住めばいいよ』
[何も知らない自分の言葉に、男は頭をゆるりと横に振り、笑った。
顔は思い出せないけれど、確かに笑ったのだ。
…すごく哀しそうな顔で。]