[ヘルムート・エールラーの名はすぐに見付ける事が出来た。ロッカーの鍵が開き、扉がブラブラと揺れているあたりで嫌な予感がしたのだが。]
──これは
酷い。
訴訟を起こせるなら、
起こしたいものだ。
[金属の秘密箱は、精巧な細工を乱す事無く、熔解され無惨な塊と化し、液化した状態でロッカーにこびり付いていた。サファイアブルーの両眼を大きく見開き、一度閉じて深く息を吐く。それ以上の言葉が出て来ない。預ける時点で予想が出来た結果では有るが。]
──…ハッ !
中にある物を必要とすると考えた私の過ちか。
[憤りに任せ、壁に強く拳をついた。金の巻き毛を乱し、荒い息を吐いて、震える肩を抑える。
肩を抑える腕は重かったが、他の者はもっと重く石のようであっただろう。例えば「なるべく貴方をみていましょう。」と言ったダーヴィッドに、祈る事が出来なかった自分を悔いた。]