─ 聖堂 ─
[ひやりと静謐な空気の中を、硬質な靴音を立てて進み。
古びたピアノの前で足を止めると、ふ、と苦笑を浮かべて]
…ただいま。
ちょっとご無沙汰しちゃったわね?
[小さく声をかけると、クラッチバッグから取り出した手袋をはめ、同じく持参してきたブラシで表面を掃いた屋根と鍵盤蓋を開く。
弦の様子を見た後、軽く鍵盤を叩いて音の狂いの有無を確かめ]
寒くなったし暫く見てなかったからちょっと心配だったんだけど。
錆びもないし、直しもそう必要ないみたいね。
これならそんなに時間かけなくても大丈夫かしら。
[気になるのは{4}箇所だけで、後は錆び防止に薄く油を差せば良い程度。
ハンマーも油差しも持ってきているから、問題は無い。
実際、1時間もしない内に調律は終わり]