[見えてなかったのか、それとも知ろうとしなかったからか。
歩き始めてごく近くから、同僚だった人から声をかけられ、色の違う両の目が瞬いた。]
……あなた、ジョエルさん…?
[言葉尻が上がったのは、初めてみる表情だったから。
彼の嘲るような笑みに、驚きはした。
したが、それはある種見慣れた笑み。
虐げ侮られるのには慣れている。
ふうんといったような感じで、驚きはゆっくり凪いでゆき、比較的穏やかにそれを受け止めていた。]
あの方には恩がありますから。
[至極当然といった様子で、澱みなく応えた。
死者と対峙するのは初めてで。
こういう時、何を言えばいいのかはよくわからなかった。
言いたかった事はあったはずだが、謝罪もなにも、口にする事は結局せずに、静かに前に立っていた。]