[音楽に携わるものであれは、あるいは中央の噂話に触れる機会のある者であれば。青年と同じ名前の歌い手──不世出と謳われた聖歌の紡ぎ手が、数年前に巡礼の旅に出て以降、行方知れずである、との話を聞いているやも知れないが。その件との関わりを問われたとしても、記憶の欠けた青年には答える術はなく。ただ、曖昧な笑みを浮かべるのみだった。**]