さてと、役者が揃ってきたねえ。
人狼の御伽噺のことは、みんな知ってるだろう。
でもこんな話は知っているかな。狼になりきれなかった狼のことさ。
人間であり切れなかった人間なのかもしれないし、狼に近づきすぎた裏切り者なのかもしれない。
それとも、もっと違う事情があったのかもしれない。
婆は何も知らない。それがどうして現れるのか、詳しいことは伝わっていない。
むかしむかし、どこかの国に、人間なのに人狼の声を聞き、狼の強力な味方となった者がいた。
何しろそいつは誰が調べたって人間なんだ。
なのに狼と語り、狼の友として人に牙を剥いた。恐ろしいことだよ。
……そう、ただそんな、むかしむかしのお話だけが残っているのさ。
そしていま、この村にもね。
[唐突に飄々と、他愛のない御伽噺のように語りだしたそれは、ギルバートの思案顔に答えたものだったらしい>>204]