…、…あめ?
――くらいね。
[するりと幼子の腕にしがみ付く合間、窓を叩く音に漸く気付いたか仔が外へと視線を向ける。
…空が闇に近付いたその理由を、仔は理解しているのか。
真直ぐに空を見上げる仔の視線からは、そこまでは判らねども。
私が上りきったのを見やれば、じゃあ行こっか。と一度視線を私に向け――
しかしはたと気付いたかの様に、自らの口を掌で押さえた。…何事か。]
…ブリジットは寝てるから、しー。
静かにしなきゃ、だめだよ。
[…声を主に発されていたのは幼子の方ではあるが、まぁ言うまい。
寝台の枕元に置かれた小袋を握り締めると、仔はそろそろと忍ぶ様に部屋を横切る。
その途中小袋から一つ…蜜柑味らしき橙色の包み紙を取り出すと、寝台に凭れ掛ったままの氷竜殿の傍らに一つ置きおいて、幼子にしては極力物音を立てぬ様、起こさぬように部屋を後にする。
しかし所詮は仔。若干静かには程遠い気はしないでも無いが、氷竜殿が起きていたかは定かでは無い。]