[練習所に辿り着くまで、一度も背後を振り返ることはなかった。
戻って早々鉢合わせたのは、先にアーベルの不在を報せた楽団員。まだ新米の彼はエリザベートを見るなり明らかに困惑の表情を浮かべたが、当人はなんてことのない顔で]
迷惑かけて、ごめんなさい。
アーベルと同じパートの方でしたよね。
よろしくお願いします。
この子、ときどきひとり走っちゃう癖があるから、釣られないように気をつけて。
[丁寧に一礼すると、後から来たアーベルの背を押す。姉と言うよりは母の態。終わりは演奏に関してらしかった。
呆気に取られた様子の新人に微笑を返し、エリザベートは自分の持ち場へ戻っていく]
[他のメンバがそれを見て、同情したか面白がったかは、彼女は見ていない。
ただ確かなのは、彼が伝えに行く前からこうなるであろうことは、周知の事実だったこと]