―昔々―
[今まさに息絶えようとしている男がいた。
妻は既にこの世にない。築き上げた財産も最早意味はない。唯一気がかりだったのは、一人残される息子のことだけ。
意識が遠のく中、彼は息子に言い遺した。
『或る村の近くにある崖の上に、屋敷を建てて住んでいる男がいる』
『彼は私の弟に当たる男だ』
『何かあったら、彼を頼りなさい。きっと悪いようにはしないだろう』
伝え終えた男は、満足してこの世を去った]
[彼は知らない。愛する一人息子が、一足早くあの世へ旅立っていたことを。
今際の際、無言のままずっと手を握っていたのが、彼を殺した“友人”であったことを]