[とはいえ、ざわめいた状態での練習は長くは続かず、早めに打ち切られ]
んじゃ、居残りしてくから。
あー、夕飯は何とかするよ。
遅くなるようなら、そのまま世話になってくるからさ。
[解散の後、姉にこう告げた。
こう言って帰宅した試しはほぼ皆無のため、いい顔はされないだろうが。
何か言われる前に、最初に飛び出してきた三階の練習室へと逃亡する]
あー、もー、にしても。
……本番、かぁ……。
[人気のない練習室に駆け込み、零れた呟き。
長く伸ばした前髪の陰の表情は、薄暗さもあって窺い知れず。
しばしの沈黙を経て、ふる、と首を振った後、譜面台に向き合いフルートを構える。
紡がれる音色は、やはり、水の流れの如く静かなもの]