[そうして、立ち上がる気配に顔を上げ。
映るのは穏やかな色。
張り詰めていた表情が、ふと緩んだ。
それも憂いを完全に消し去ることはできなかったけれど]
…ああ。
懐かしいな。
[まだ両親のいた頃。
同い年の少年たちと違って、その頃から内にばかり興味を向けていた己はしばしば苛められて、その度に幼馴染みたちに助けてもらったりしていたのだけど。
泣きながら帰って来たある日、たまたま家にいた兄がこんな風に慰めてくれて]
あの時は、何を作ってくれたんだっけ。
[目を細めた。
あの頃と違うのは、己がもう泣くような年ではないということ]