ノートを一冊。
[返答を受けて一旦閉められる戸。程無くして再び控えめに開き、隙間から店主がノートを差し出してくる。値段はいつもと同じに、と補足しながら]
代金だ。お釣りはいらない。貰っておきたまえ。
気前がよいのが私の見上げられるべきところだ。
[言って値段丁度の硬貨を渡し、ノートを受け取る。店主は硬貨をエプロンのポケットにしまうと、じゃあ、とそそくさ顔を引っ込めた。また、閉まる戸。
新しいノートを常備している縛った荷物に重ね持ちつつ]
何だね、妙に慌しいじゃないか。そうは思わないか、店主。
忙しいのかい。それとも怯えているのかい。
空ではなく地が蓋である可能性に。
空ではなく地が蓋であったなら。
そうして蓋が外れたとしたら――
嗚呼、あまりに恐ろしい事だ!
[一度の大声を残し、再び広場へと歩き始め]