[女はそぅとザムエルに近づき、彼にしか聞こえない小さな呟きを落とす。砂糖菓子のような声で紡がれるのは――甘い甘い毒]
…魂が代価ならァ、死の間際にしか聴けませんのネェ。
もっともォ、所有者であれば…ですけれどォ。
エェン、ギュンター様はとても壮健でいらっしゃるからァ、そんなご心配はありませんわよォ。
けれどォ…これほどに大切になさっているのならァ、生涯手放されないでしょうしネェ…決して聴けぬと思うとォ、すこぉし残念ですわァ…
[ギュンターがいる限り、ザムエルがこれをその手にする事はないとの唆しは、物思いに沈む彼に届いたかはわからない。
女は老人の反応を確認することなく傍を離れ、泳ぐようにオルゴールの元へと近づく]