―村の通り―
[イレーネの髪の色が灰銀ならば、ゼルギウスの髪の色は白銀。
束ねていない髪が風に遊ばれるものの、帽子を被っていればそれほどでもなく。
ただ、時折強く吹く風に、帽子を飛ばされぬよう、傘の柄を腕にかけることであいた片手で押さえた。
このような状況でも、このような状況だからか、妻と繋いだ手を離そうとはしない。]
……ギュン様、君だけに用みたいだね。
[その手が離れたのは、工房への道中、自衛団長のご老人に会った時。
ヘビースモーカーの彼に、切々と妻の前では煙草を吸わないでと訴えてから、どうにも若干避けられているというか、苦笑いの目で見られる感があるのは否めない。
行っておいでと、離した妻の行く先。
一瞬視線が合えば、やはり相手は難しい表情を少し崩し、苦笑いでゼルギウスを見た。
唇が微かに動いたのが見える。「吸わんから」そう見えた。]