「――本当に、ここでいいのかい、お嬢ちゃん」
[こちらに声を掛ける運転手の声は不審げだった。
都会の灯も今や遠く離れて、目の前には道があるのかどうかも怪しい山があるのみ]
ああ。さすがにこっから先は車じゃ登れねえし、ここで降りるだよ。
「そうかい。……ところでだね。ここまで来るのに結構な距離を走ったんだけども、お代の方は――」
[運転手が言い終わらぬうちに、ばさりと紙幣の束が置かれた。
運転手は一瞬何が起こったかわからないという顔をし、そして慌てたようにその枚数を数え始める。
釣りの計算を終えて顔を上げた時には、乗客である少女の姿はどこにもなくなっていた]