[一つの筏に、時が満ちても生き残った二人の姿が見えた。
ユリアンには頼みたいこともあったから気づけたのだろうか。
けれど今目が向いてしまうのはもう一人の方]
ダーヴさん。
師匠と同じ気配の人。
[場の中では知らぬ相手の振りをした。
クロエになる前、出会ったのはただ一度だけ。
その時もただの行商人だと思っていたし、師匠も特に変わった応対をしているようには見えなかった。だが]
そういうことだったんですね。
エーリッヒさんよりも、あなたを怖れるべきだった。
[忘れようとした記憶は辛く悲しいものばかりでもなかった。
だから知らぬ振りをしながらしきれなかった部分があった。
今はもう何故そうなったのかを理解して、寂しさを感じつつ笑うばかり。そのまま近寄ることはせず、クロエとしての恩人に礼を告げてこようと離れていった]