ああ、ドロテア。
おりますよ、どうぞ。
[答える声は、常と変わらぬのんびりとしたもの。
それに応じて入ってきた黒髪のメイドは、一礼してメール端末を差し出してくる。
ここに落ち着いてから、新たに雇い入れたメイド。
使用人をどうするか、という点では父と話し合い、ズューネを受け入れるのはもうしない、という方向で意見の一致を見た。
父としては、同じような事態への懸念が強いのだろうが。
自身の心情的にも、ズューネを近くに置きたくはなかった。
……赤い滴を零していた時の様子が、記憶に焼きついて離れないから]
「……マイルズ様? どうか、なさいました?」
あ、いえ……なんでもありません。
……演奏会関係のメール、ですね?
[思い出した光景にふと表情を翳らせると、案ずるような問いが向けられる。
それに、すぐさまいつもの様子に戻って、逆にこう問い返しながら端末を受け取った。
それからふと、ある事を思い出す]