[ふっと、冷たい風が柔らかく触れたことに気付いた。
そっと振り向いてみれば、扉が開いている>>#2のが見えた。
降り続いていた筈の雨音はもう外からは聞こえては来ず。
ただ、出て行けと促すかのようにそこに在る扉と、その先の闇を、暫し見遣った。]
そうね。そうだよね。
あたしは、もう此処に居る理由なんて、ないん、だ。
雨ももう止んだんだ。今、出ないと――。
[外の冷たさに、毛皮のコートを部屋に置いてきていたことを思い出す。
この屋敷まで逃げてきた折に、持ってきたただ一つの荷物。
それを取り返すために、一度、二階の客室まで駆けあがった。
そしてコートを手に、再び階段まで戻ってきて、
――振り返らずに、エントランスまで、駆け下りた。]