[暗転。
波がうねる、銀がうねる。
銀の鏃の掠めた前脚が疼く]
[他所から来たという少年と話をするようになった切欠は、何だったか。
気づけば一緒に、年上の幼馴染たちに連れられて森を駆けていたけれど。
彼女らには話した事のない事も、彼には自然に話していた気がする。
森の中で息づく様々な緑のこと。
木陰でひっそり咲く花や、森の奥の野ばらの茂みの話。
秘密の木苺の場所も、彼にだけは教えていて。
一緒にいた時間は長くはなかった、けれど。
一番自然に話せていたのは、間違いなく彼で、だから。
──別れ際、餞別といって財布を押し付けられたとき。
何を言えばいいのか、わからなくて──結局、何も、言えなかった]