[ふらふらと、世界をあても無く彷徨い歩いていた。
その片目には何時の間にやら眼帯がひとつ。おかげで視界はあまり良くない。
それでも構わず歩いていれば、ふと黒い靄が近づいてきて、内側にするりと入り込んだ。
その時に感じるのは、ジョエルの霧に触れたときのようなほの暗い感情。そして――――アリシアだった時の光景。
自分の産まれを待ち望み喜んでくれた母親に、どうしても有難うと伝えたくて「おかあさん」と心で語りかけた瞬間地獄に叩き落されて。
屈辱が当然で、ただ屠る事が唯一の正義で、力を奮う時だけが至福だった、暗い過去。]
つっ……。
[微か眉を寄せるが、あの時のような強いものに襲われる事はない。
今の所は、だが。
ゆっくりと長い息を吐き、大袈裟な程度肩を落とすと、気分は少し和らいだ。]