『本』しかなかったじゃないだろ。
唯一と思い打ち込める『本』がクレイグにはあったんだよな。
[彼の姉であるメリルの言葉で気付けたなら幸いと思う。
たとえ遅くなったとしても、彼のように気付けたなら、と。
クレイグの深い吐息の音色の後に区切られた言葉の間。
先を待つように向けた顔が僅かに傾く。]
――――。
[思わぬ言葉に呆けたように半ばあく口と瞠られる双眸。
はたりはたりと瞬きを繰り返した後に、う、と言葉に詰まり
彷徨い、下へと落ちてゆく視線。]
〜〜〜〜〜〜っ、
[年上として表面にはりついていた余裕が無残にも剥がされて
クレイグの言葉に揺さぶられる心は感情の波に戸惑うばかり。
顔を伏せれば前髪が影をつくり表情を隠してくれるが
耳朶染めるほのかな朱は隠しきれない。]