[ぱたぱたと駆けていったその先には、地に座り込むお婆さんが居りました。]
大丈夫、苦しいの?
[おんなじようにしゃがみ込んで覗こうとすると、その顔いろは少し青ざめていました。ベアトリーチェはお婆さんの細い腕に小さな手を重ねます。
するとどうしたことでしょうか、てのひらからお日さまよりもあたたかく、月よりもすきとおった光が生れて、柔かに二人を包んだのでした。見る見るうちに苦しそうだったお婆さんのかおが安らいだものになってゆきます。
もしかすると、普段にはない強い天聖の力を感じたものも居たかもしれません。ごくごくわずかなものは、それが普通の人の使う魔法とは、一ぷう変わっているとも。]
ああ、楽になったかな。
[お婆さんは何べんもお礼を云うのに、ベアトリーチェは緑の眼を細めて微笑いますと、機嫌よさそうに去ってゆきました。
そのときにはもう、いつものこどもで、けれども、ゆらり、ゆらゆら、わずかに揺れて、揺らいで。]