[母は村の暮らしが嫌で家出した娘だった。
父はその母のヒモみたいな生活をしていた男だった。
流行病で母が死に、父は厄介払いのため彼を祖父の所に置いていった。祖父は父では育てられないと仕方なく引き受けたものの、子供扱いは絶望的に下手だった。
田舎暮らしは、場末とはいえ都会のそれとは全然勝手が違った。
祖父は寡黙で何をしろとも言わず。狩りの間は家に放っておかれるような状態だった。
一人が寂しくて村に顔を出し、年近そうな少年と出会った。
祖父と同じく元より言葉の多い方じゃない。それでも少年は根気良く付き合ってくれて、年上の仲間達とも引き合わせてくれた。
時には二人だけでも森を探検し、緑の僅かな違いや隠れ咲く美しい花々、秘密の木苺のことまで教えてくれた。
森と村での暮らし方は、そうやって身につけていった。
チビでヒョロヒョロだった身体も少しずつ大きく丈夫になり。
どうにか溶け込んできた3年目。騒ぎが起こった]