[アンネリーゼに連れて来られて、間もない頃。基の樹より分かたれたばかりのかれは、まだ、この土地に馴染んでいなかった。土の匂いもそよぐ風も周囲に住まう妖精も、西の島国とは異なる。僅かならず、郷愁に駆られることもあった。
子供が騒ぎ立てる声がする。
微睡みに落ちていたかれは目を覚ます。楽しみにしていたのに、とねだる声。
拗ねた小さな背を見送り、振り返った森番たる彼女は、困ったような、なのに何処か嬉しそうな笑みを浮かべていた。何故かを訊ねても理由は教えてくれない。
数日の後、成った実が酸っぱいことは知っていたろうに、彼女は訪れた少女に果実を一つ与えた。目を瞑るさまに、言わないこっちゃない、と思う。
それでも幼い子供は、また実をつけて欲しいというから。
少しだけ、嬉しくなった]