[それから、幾年もの時を積み重ねて。
林檎の樹は確りと地に根を張り、枝は天に高く伸び、葉は青々と茂り、毎年この季節になると、瑞々しい果実をつけるようになった。
熟した赤い実は甘い。
その頃には彼女も随分、年老いていたけれど。その傍には愛する人間(ひと)がいて、かれも成長を見守ってきた子が、生まれたばかりの孫がいた。
彼女の眠りにつくさまを、かれは見ることはなかったけれど。
最期に逢った彼女は言った。
自分の代わりに皆を見守って、美味しい実をつけて欲しい、と。
それと、「ごめんね」と小さな謝罪が届いて、かれは枝を揺らした。
木の葉が鳴らす音を聞いて、彼女は微笑んだ。
――それも今では、昔の事]