―開放より数日後―[数年を暮らした家で声を届けることは叶わなかった]「ああ、聞いてるよ」[カルメンがやってきた時も婆は淡々としていた。ただしそれは声だけならば。見えぬと分かっていても、話をする時に顔を見ないようにしたりする人ではなかったのに]「ほれ、行った行った」[閉まった扉の中、俯いたその背中は小さく見えた]…ごめんなさい、婆。クロエの名前まで貰ったのに。[悲しませてしまったことを謝る。聞こえてはいないはずの婆は、首を横に振った]