―山の麓のとある村―
[酒場を訪れた黒髪の男がカウンターの席に着く。
背に掛かる長い髪を一つに束ねた旅人のような風体だった。
黒髪の旅人の髪の向こうに覗く眸は深緑の色。
注文は、という店主からの問いに旅人は
カウンターに並ぶ瓶の一つを指差した。
其れは赤いワイン。
店主は言われた通りワインを注いだグラスを旅人の前に置く]
――…そういや、ここいらで崖崩れがあったんだってな。
しかも人狼騒ぎまであったとか?
真っ黒な人狼の死体が出たって、ホントなのかい?
[旅人はそう店主に問い掛けた。
店主は頷き大げさに面白おかしくその話をし始めた。
犠牲者に関しては惨い事だ可哀相だと付け足される。
旅人はさも興味深そうに話を聞いていた。
旅人の口許は弧を描き笑みを形作っていたけれど
グラスに満たされた赤を見詰める深緑は笑ってなどいない]