[旅人はグラスの赤を呷った。
コト、とカウンターに置かれたグラス。
その横には代金が置かれ、旅人は席を立つ]
ご馳走さん。
美味かったぜ。
[その言葉に気を良くした店主はそのワインの出所を教えてくれた。
先ほど話した人狼騒動があった村の修道院のワインだ、と。
死んだ人狼が修道院の者だという話は出ない。
修道院か教会が外聞を気にして揉み消しでもしたか。
旅人は、へぇ、と感心したように声を漏らした。
旅人は店主から強い視線を感じた。
何だ、という風に首を傾げれば店主は口篭もる。
何処かで見た顔だ、と店主は思ったが其れは言葉にならなかった。
言う前にその旅人は姿を消してしまったから。
けれど少しして、気付く。
あれはあの修道院の男と同じ顔だった、と――]