[扉が開いた時、その向こうにいた者がどんな目を向けてきたかを、彼は記憶していない。その場にいた者が1人、また1人と出て行っても、顔も向けずに座り込んでいた。やがてまた数人の男がそこを訪れ、半ば無理やりに腕を引かれ、初めて彼はそこを動く。好奇の目に晒されながら連れて行かれた場所は、今までいた場所と然程変わらないように彼には思えた。出たところで行く場所もなかったから、『影』はあくまで影として彼の足許から伸びていた]