[数年が経ち、同じく楽団に入った弟と共に演奏を重ね、クラヴィーア姉弟の名が密やかに囁かれるようになる。
気にも止めなかった。
両親と同じ血が流れていることを示すものであり、共に演奏する相手がいる。
歌を紡がなくなった唇は閉ざされたが、指先は白と黒の世界で妙なる旋律を奏でた]
[弟は違ったのだと気づいたのは、彼が風に誘われてから。
ほんとうは。一度だけ、後を追ったことがあった。
慣れない下街。薄暗い路。
けれど、聴こえたのは。
少年達の談笑と、ハーモニカの音色。
楽しげな、弾んだ、音]
[引き結んだ唇は、何もを言わず、何も問わなかった。
代わりのように、旧いランプに、火が灯された]