[父は許すと言う前に、条件があると口にする。>>508
その内容を隣で聞いていて――――ふと顔を知らない母親の事を思い出した。
母は、人を襲う事を厭う人だったらしい。
人の肉を絶ち、時折父の血を啜る事で餓えを凌いでいた母。
だから母親は、娘の出産には耐えられなかった。
あの時、自分の心臓を差し出していれば、と
一度だけ父が苦く零したのは、初めて酒を飲んだ時。
だがその後すぐに、それを後悔もしていないと父は言う。
子を残せて、愛した人に見取られて幸せだと。
そんな言葉を残した母の死に顔はとても満足したものだったから、と。
深酒した父は、翌日自分が言った事を綺麗に忘れていた。]