……逃げたく、なかった、から。
自分の、力……『見出すもの』のそれが、齎す、ものから。
[途切れがちに紡いだのは、意識を落とす直前にも漏らした言葉]
……ここに来る、少し前に。
俺、同じ状況に、巻き込まれて。
その時、望まれるままに、力、使って……同じように、月のいとし子を見つけて、でも。
……見つけた月のいとし子を、どうしても、自分では、傷つけられなくて。
[かつて、『聖歌の紡ぎ手』と称された少年の傍らにあった、『神曲の奏者』と呼ばれた楽士の話は知られていたか。
その存在もまた、『聖歌の紡ぎ手』同様、五年前から消息不明とされているのだが]
……その時、導き手として立っていた、朱花の主に、結果を伝えて……後のこと、全部、押し付け、て。
その先のこと、全部から……逃げ出して、ここまで、来て。